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第266話 

「それでいいんじゃない?」松本若子の瞳が星のようにきらめき、「以前は堅実すぎて、すごく疲れていたから、もうそんなに無理はしたくないの」と微笑んだ。

毎日楽しく過ごせれば、それでいい。でもこの世界には、たくさんの人が負の感情に影響されている。

みんな知っている、楽しい日もそうじゃない日も一日なのだと。でも知っていることと、実際にできることは別物だ。

藤沢修は松本若子の目の奥に、全てを手放したいというような感情を垣間見て、胸がまたズキンと痛んだ。

彼は、自分が最低な奴だと改めて気づいた。

離婚は、松本若子を解放するためだったはずだ。

今、彼らは離婚して、彼女は自由になった。もうこの結婚に耐える必要はない。

だが、彼女が本当に吹っ切れた今、彼は少しだけ未練が残っていることに気付いた。

いや、少しどころか、もっと深く残っているかもしれない。

それを考えることが怖くて、考えれば考えるほど、自分が向き合いたくない感情が溢れてくる気がした。

しばらくして、藤沢修は心の中の感情を落ち着かせ、薄く微笑んだ。「そうだね。お前には、毎日を楽しく過ごす価値があるよ」

松本若子は微笑むだけで、何も言わなかった。

「若子、洗って休みなよ」と彼が声をかける。

「でも、あなた一人で大丈夫?」若子は少し心配そうに言った。彼の夜の寝相があまり良くないのを知っていたからだ。

以前もそうだったが、寝返りを打つたびに、

背中の傷が当たって痛がることが多かった。

「大丈夫だよ、心配しないで。でも…」藤沢修は一瞬言葉を止め、「いや、何でもない」

「でも何?」若子は彼が何か言いたそうなのを感じ取った。「言いたいことがあるなら、はっきり言って。今更隠す必要なんてないから」

どうせもう離婚しているのだから。

以前の隠し事だらけの関係は、心が疲れるだけだった。

藤沢修は口角を引き上げ、苦笑いを浮かべた。「いや、もしお前が気にしないなら、同じ部屋で寝てもいいんじゃないかと思って。ただ、急に離婚のことを思い出して、不適切だって思ったんだ」

彼はまだ、二人の婚姻関係から抜け出せていなかった。時折思い出して、もう離婚したのだと気づく。

彼は自然と彼女がまだ自分の妻であると考えてしまう。

滑稽な話だ。まるで時折の記憶喪失にでもなったか、あるいは、離婚した事実を思い出したくないかのよう
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